・Into The Wild(かなりネタバレ)
 よかった。好きな映画。まず、以前買っていたサントラが、大好きでよく聴いていたので、
 序盤に Eddie Vedder の歌が聴こえて来た途端に、泣けてきてしまった。
 
 しかし、映画を観ながらいろいろ思っていたのだが、自分は、映画についての感想が、
 映画そのものについてでなく、その主人公のストーリー中での生き方についてになりがちで、
 それらの区別がついていないことが多いような気がする。
 気をつけていたつもりけれども、改めて、考えていることがそうだと思った。


 映画の内容は、裕福な家庭で育ったエリートの青年が、文明社会に生きることを投げ捨て、
 放浪の果てにアラスカの荒野へ向かい...、というようなもので、詳しくは割愛。
 私としては、しばらく前にこのあらすじを目にして想像したものより、内容的によかった。
 原作は読んでいない。どう違うのだろうか?映画自体に満足しているので、
 しばらく読まずに余韻を楽しみたいが、そのうち読んでみたい。

 主人公役のエミール・ハーシュも、思ったよりずっとよかった。
 純粋な感じ、あからさまに怒りなど出さないところ、結局育ちのよさそうなところなど、
 主人公の青年クリスの感じをうまく出していたのではないかと思う。
 ショーン・ペンに声をかけられてこの役をもらった以上、頑張らない役者はいないと思うけれど。
 作品としても、この原作ありの話を映像作品として作ったものとして、
 とてもよくできていたのではないか、と思う。どの役者さんも、誰も不自然でなく、よかったし、
 風景を描いた映像もきれいで、ブロークバック〜と同様、内容とともに残る。
  
 主人公クリスの背景やおおよその気持ちを、妹が語っていたのがよいと思う。
 死後に彼について語るので、彼の気持ちを最も理解していただろう彼女が語るしかないわけだが、
 両親の不和や複雑な家庭の事情などの問題や、兄妹がそれをどう見てどう対応していたか等を、
 兄の喪失を体験していろいろと思い、両親のその事件後の変化も見たうえで語られているので、
 冷静で、広い視点からの語り口になっていて、よいと思う。


 頭のいい純粋な青年が、豊かすぎる文明社会や資本主義的、社会的な生き方から
 自由になりたくて、孤独を得たくて、アラスカでの暮らしを求める姿は、
 働いていた農場の主のWeyne も言っていたように、頭でっかちなのかもしれないが、
 ”お坊ちゃんの自分探しね”、と簡単に言えることでもない。
 ある程度は、実際に、自然と格闘し、質素な暮らしを自分で作り上げていた(と思われる)し。
 どこまでが文明を捨てた暮らしになるのか、私はその境はよくわからないし、考えていないが...。
 ひとつ、彼が草を食べたり、動物を撃ったりして生活するのを見ていて、
 やはり、生き物は、得るだけで生きては行けないのだろうな、
 何かを返しながら暮らさなければ、自然の中では生きていけないのだろうな、と思った。

 
 彼のそういう生き方への志向の底には、育ってきた家の中で見てきた世界が、
 まがいもの、つくりもの、偽りに満ちていると感じていたために、
 自分はそいういうもののない、正しさや純粋さの中で生きたい、
 と考えるようになったからではないかと思う。  


 放浪中、クリスはさまざまな人びとと出会うが、その中でも、
 農場主のWeyne、ヒッピー夫婦、一人暮らしの老男性、とは、
 それぞれが親的な人として関係を作っていた(作り直していた)ように思う。
 しかし、それぞれ、とてもいい関係だったと思うが、それはもともと他人だからで、
 実際の親とは、実際の親だからこそ、その関係ができていたのだと思う。
 親に対しては、ああいう生き方をする人は、友だちにだったら選ばない、自ら関係は結ばない、
 と思うものだと思うが(そうでない人もいるのだろうけれど)、
 でも、それでも気になって、おたがい欲してしまうのが、親子なのでは、と思う。
 だから、それだけでいいじゃないか、そういうものというだけで充分じゃないか、とも思う。
 反感、不信の対象を自分が欲していると考えるのは悲しいことだけれど。
 この映画の一つの観点でしかないこのへんに拘るのは、ある種の人だと思うけれど。 


 最終的に、人とのつながりが大切、みたいなところへもって行くのは、ありがちであり、
 でも、きっと、とても正しいと思う。私自身は、まだそこへ行っていないけれど。 

 
 彼は、死んでしまったから、こういう話になった。
 この後に死なないで家に戻っていれば、そういう一時期、としての話になるのだろう。
 でも、あのように生きて、あのように間違いのように死に至ったのは不運な話なのか、
 あのような間違いをする場に身を置くこと自体、そういう流れを選んだことになるのか、
 よくわからない。(事実が脚本通りであるとして。)
 
 クリスの生き方について、ショーン・ペンも自分に重なるところがあったから、  
 この映画を作ろうと思ったのだろうと思うし、この出来上がりのように描いたのだと思う。
 自然、風景がとても美しく、これはできれば、大画面で観た方がよいと思う。