・「アヒルと鴨のコインロッカー
 同僚に借りて観た。(以下、長い。)
 これを外で観たら泣いて恥ずかしいかもしれないと思い映画館で観るのをやめたので、
 観るのをとても楽しみにしていた。
 私は本を先に読んだけれど、どちらが先でも、自分の感覚にまかせていいと思う。
 原作を先に読むとがっかりすることが多いけれど、これは、これはこれ、と思えた。
 原作のよさや成り立ちも生かされてて、原作と違う点もそうがっかりしない。
 どちらがいいかと聞かれれば、本がいいとは思うけれど(予想したほど泣かなかったし)。


 ”ドルジ”の瑛太さん、いいです。今の大河ドラマでもいい感じですが、好きです。
 なんで、これまで、もっといい映画選ばなかったんでしょうか?(失礼)
 ”河崎さん”が逝ってしまう時の演技は、こちらもほんとに泣けました。
 ”椎名”くん役の人もすごくいい感じでした。
 井坂さんて、基本的に↑ああいう人じゃないだろうか?という感じがする。
 もっと頭がきれそうな(実際にもきれる)人だろうけれど。
 あたたかさがある人、基本的に人のいい人、という感じがするので。
 ”琴美”も、”河崎さん”の松田龍平くんも、原作のイメージをこわさなかった。
 特に松田龍平くんは、本人のイメージが強いので役を選ぶ気がするけど、よかった。
 琴美のこともドルジのことも好きで大切にしたい、という想いがちゃんと表れていたと思う。
 以下は、映画そのものというより、内容についてになってしまうと思う。


 どういう想いからこの作品ができたのだろう、どこが中心になっているのだろう?
 ということを、映画を観たり本を読んだりするとよく考えてしまうのだが、これは、
 外国から来た人々への日本人の扱いへの疑問、自分も含めての戸惑い、
 その中で様々な想いを抱えている外国人たちの気持ち、を想う気持ち、
 ペット殺しのような酷い残忍なことを平気で行える人々への怒り
 (事件的には他の事でもいいのだと思うけれど)、
 そしてそういうことで実際に大切なものを失くしてしまった人の思い、
 ブータン人の死生観や生き方などについての思い、
 ...などが、いろいろと重なり合って絡み合ってできたものなのだろうと思う
 (もっといろいろあるかもしれないけど)。

 
 全体的にあたたかい内容でも、残酷なものを残酷に描く、
 伊坂さんの作品はそういうところがあって、いいと思う。映画ではそうでもないですが。
 (好みの狭い私の読書歴のなかでは、桐野さんとかもそうだと思う。)
 ほんと悪事をやるなら、ここまで思い付くでしょ、ということが描かれてないと、
 そんなものかよ、と思ってしまうので(基本的にいい人な?私程度が思い付くことだけど)。


 そして、私が井坂さんの作品でよく感じるのは、
 現実にそういうことをする人々を、井坂さんはほんとうに憎んでいて、
 そういう人々への復讐ならやってもいい、と感じてしまうくらいの怒り
 (原作では、琴美がペット殺しをする若者たちに襲われた時の恐怖や、
  若者たちの狂った感じがもっとすごく実感できるように描かれているから、余計感じる)と、
 でも、やっぱりそれはいけない...、そういうところでの葛藤です。
 自分も(多くの人も)、上に書いたような残忍なことを頭では考え付くような人間で、 
 そういう意味では同じ(あ、違う?)。でも実際にやるかどうかは大きく違う。
 そして、大切なものがいなくなってもそれが生きているように感じることはできるし、
 そういう想いもすごく意味があるけれども、生きている生のものがいなくなることは、
 やっぱりもちろん、すごく大きく違う。
 そういう悲しみや怒りからなら、そういうものを意図的にもたらした相手になら、
 復讐してもいいのではないか?そういうふうに感じてしまうくらいの気持ち。
 ひょっとして、伊坂さんは、作品の中でそれを果たしているのではないかと思う。
  
 ...というようなことを本を読んで漠然と感じたことを思い出し、映画を観て少し考えました。
 映画では、ゴルジが、異国で、大切な琴美をなくし、河崎さんをなくして、
 部屋で一人、二人の声がはいっているボイスレコーダーを大事にしてなんとかやってきた時間、
 その後に出会えた椎名とも会えなくなってしまうと思ったときの気持ち、
 そのあたりを瑛太さんも、監督さんも、表せていたんじゃないかな、と思いました。
 そして、本にこういうところあったっけ?と、その違いを覚えていないところがあったし、
 じつは、神様を閉じ込める、ということはわかるけれど、”コインロッカー”という言葉が
 タイトルにつけられるほどの意味を感じられていないので
 (他のところでも閉じ込められたし)、そのへんも考えて、また読み直してみようと思う。

アヒルと鴨のコインロッカー [DVD]

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